会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-8

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会計と財務・第8回 ストックオプションの付与手続

今回は前回に続いて、新株予約権の付与手続などについてみていくことにしましょう。新株予約権については、会社法の第236条~294条で定められています。新株予約権の付与は、(1)募集事項の決定、(2)通知、(3)割り当ての順番で行われます。以下、順に見ていきましょう。

募集事項の決定

まず、新株予約権を発行する際には、原則として株主総会の決議により、次のような募集事項を定めることになります(会社法238条)。ただし、譲渡制限会社の場合は株主総会特別決議を経ることになります。

  • 1.募集新株予約権の内容及び数
  • 2.募集新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合には、その旨
  • 3.前号に規定する場合以外の場合には、募集新株予約権の払込金額(募集新株予約権1個と引換えに払い込む金銭の額)又はその算定方法
  • 4.募集新株予約権を割り当てる日(割当日)
  • 5.募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日
  • 6.募集新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合には、第676条(募集社債に関する事項)各号に掲げる事項
  • 7.前号に規定する場合において、同号の新株予約権付社債に付された募集新株予約権についての第118条第1項、第777条第1項、第787条第1項又は第808条第1項の規定による請求の方法につき別段の定めをするときは、その定め

通知

会社は新株予約権の申込者に対して募集事項等を通知し、申し込みを受け付けることになります(会社法242条)。新株予約権の申込者に対して次の事項を通知しなければなりません。

  • 1.新株会社の商号
  • 2.募集事項
  • 3.新株予約権の行使に際して金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  • 4.前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項

割当て

会社は、申込者の中から募集新株予約権の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集新株予約権の数を定めます(会社法243条)。また、会社は、割当日の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる募集新株予約権の数を通知しなければなりません。
 割当てを受けた者は、割当日に当該各号に定める募集新株予約権の新株予約権者となります(会社法245条)。

税制適格ストックオプション

ストックオプションは原則として、権利を行使した時点で行使時の時価が権利行使価額を上回っている部分について給与所得として課税され、また当該株式を売却した時点で、譲渡価額と権利行使時の時価との差額部分について譲渡所得として課税がされます。

ただし、税制適格ストックオプションの場合、権利行使時の課税は繰り延べられるというメリットがあります。この場合、株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額に対して譲渡所得として課税されることになります。

ストックオプション税制の優遇措置を受けるには、付与されるストックオプションが下記の要件を満たす必要があります。

付与対象者 ストックオプションの付与決議のあった株式会社又はその株式会社の関係法人の取締役、執行役又は使用人である個人又はその相続人。ただし、付与決議日において、大口株主(非上場会社において発行済株式数の3分の1超を有するもの、上場会社の場合は10分の1超を有するもの)及びその配偶者その他の特別な関係がある個人は対象とならない。
権利行使期間 付与決議の日後2年を経過した日から付与決議の日後10年を経過するまでの間
権利行使価額 ストックオプションに係る契約締結時の1株当たり価額以上
権利行使価額の制限 年間1200万円を超えない
新株予約権の発行価額 無償であること
譲渡制限 新株予約権の譲渡が制限されていること
調書の提出 ・ストックオプションを付与した日の属する年の翌年1月31日までに本店所在地の所轄税務署長に、特定新株予約権の付与に関する調書を提出すること
・株主名簿管理人にも同日までに所定の調書を提出させること
その他 権利行使(株式の交付)においては、会社法第238条第1〜3項に反しないこと
発行会社と金融商品取引業者又は金融機関との間で、株主名簿管理契約を締結していること
付与決議時の議事録及び上記書類の保存

ストックオプションを付与する場合、法的関係が複雑であったり、権利行使価格の決定等に高度の判断が必要な場合がありますので、弁護士や公認会計士などの専門家からの助言を受けるのもよいでしょう。

(矢澤利弘)

本連載「起業ブートキャンプで鍛えよう!」は、起業を志し、会社をつくり、事業を自分でつくっていきたいと思う人に向けた、起業入門向けの連載講座です。早稲田大学の学生や教職員によるベンチャー企業を数多く見てきた、早稲田大学インキュベーション推進室のスタッフ(コンサルタント、事務スタッフ)が、さまざまな実例を基に解説します。読み進んでいくのに特別な知識は必要ありません。市販の参考書には載っていないノウハウを集めた、学生による起業を意識した連載です。なお、本連載における掲載内容は、各執筆担当者の個人的見解に基づくものであり、必ずしも学校法人早稲田大学の見解に基づくものではありません。今回で、財務パートは終了しました。

会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-7

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会計と財務・第7回 新株予約権とストック・オプションの概要

今回は新株予約権とストック・オプションの利用法とそのメリット・デメリットについて見ていくことにします。起業家が創業者としての利潤を確保したり、後継者に株式を付与したりする手段として、新株予約権を用いることがあります。

新株予約権

新株予約権というのは、権利を行使することによって会社の株式の交付を受けることができる権利のことをいいます。ベンチャー企業が外部からの資金提供を受けると、創業者の持ち株比率が低下していきますが、創業者に新株予約権を付与することによって、持ち株比率の低下を回避することができます。また、後継者に新株予約権を付与すれば、後継者に株式を供与することが可能になります。

ストック・オプション

ストック・オプションは、自社株式オプションのうち、特に企業がその従業員等に報酬として付与するものをいいます。通常、ストック・オプションとして無償で新株予約権が付与されます。株式の価値が増加すればするほど、新株予約権の権利行使によって取得した株式を譲渡した際の利益が大きくなるため、役員や従業員の士気を高めることができます。

メリットとデメリット

ストック・オプションのメリットとデメリットについて、発行会社側と従業員側に分けて見てみることにしましょう。

  発行会社側 従業員側
メリット ・報酬の一部としてストック・オプションを利用することによって現金支出を抑えることができます。
・従業員が株式を売却するまでの一定期間は安定株主を確保することができます。
・業績の向上などによる株価の上昇(公開会社の場合)や株式公開など(非公開会社)を目指すことにより、従業員の士気を高めることが期待できます。
・株式譲渡時の時価が行使価格を上回っていれば、キャピタルゲインを得ることができます。
・潜在的な株主として、勤労意欲が高まります。
デメリット ・大量の権利行使・売却が行われた場合、株価が下落するおそれがあります。また、既存株主にとっては株式価値が希薄化します。 ・株価が上昇しなかった場合や株式公開が実現しなかった場合などには期待した利益が得られない可能性があります。

新株予約権の付与手続きの詳細については、次回にて説明します。

(矢澤利弘)

本連載「起業ブートキャンプで鍛えよう!」は、起業を志し、会社をつくり、事業を自分でつくっていきたいと思う人に向けた、起業入門向けの連載講座です。早稲田大学の学生や教職員によるベンチャー企業を数多く見てきた、早稲田大学インキュベーション推進室のスタッフ(コンサルタント、事務スタッフ)が、さまざまな実例を基に解説します。読み進んでいくのに特別な知識は必要ありません。市販の参考書には載っていないノウハウを集めた、学生による起業を意識した連載です。なお、本連載における掲載内容は、各執筆担当者の個人的見解に基づくものであり、必ずしも学校法人早稲田大学の見解に基づくものではありません。

会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-6

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会計と財務・第6回 領収書と印紙税

今回は領収書の発行方法と印紙税について見ていくことにします。領収書は、顧客などから売上代金を受領したときに、代金を受領した証拠として受け渡しする書類です。領収書は文具店などで売っている市販のものを使用してもいいですし、パソコンソフトなどで会社独自のデザインの領収書を作成してもいいでしょう。どちらにしても、得意先に渡す領収書のほかに、会社で保存しておくための控えを残しておく必要があります。

印紙税

領収書を作成する場合、記載受取金額が3万円以上であれば、印紙税の課税対象となります。印紙税の課税対象は特定の契約書や領収書など、対象となる文書が予め課税物件表として定められています。そして、印紙税額一覧表に掲げられている課税文書の作成者が納税義務者となります。印紙税は受取金額に応じて税額が定められており、原則として収入印紙を領収書などの文書に貼付し、消印することによって納税します。

課税文書に相当の印紙が貼られていないときには、その税額の3倍(ただし、調査を受ける前に、自主的に不納付を申し出たときは1.1倍)、印紙の消印がなされていないときはその印紙税相当額(1,000円未満のときは1,000円)が懈怠税として課税されますので注意が必要です。

印紙税額一覧表にある「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」の部分を抜粋してみましょう。領収書の作成に当たってはこの部分が対象となります。

記載された受取金額 印紙税額
100万円以下 200円
200万円以下 400円
300万円以下 600円
500万円以下 1,000円
1,000万円以下 2,000円
2,000万円以下 4,000円
3,000万円以下 6,000円
5,000万円以下 10,000円
1億円以下 20,000円

ただし、記載受取金額が3万円未満のものは非課税となります。

印紙税の課税対象となる領収書はあくまでも「売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書」とされていますので、金銭や有価証券の受け取りでなければ、収入印紙を貼る必要はありません。

印紙を貼る必要のない領収書のケース

それでは領収書に印紙を貼る必要のないケースをいくつか見ていきましょう。

クレジットカード
クレジットカードで買物をした顧客に、クレジット利用伝票(お客様控)のほか、顧客の要望により、領収書を作成交付している場合には、印紙を貼る必要はありません。
売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書は、金銭又は有価証券の受領事実を証明する目的で作成されるものです。クレジット販売の場合には、信用取引により商品を引き渡すものであるため、その際の領収書であっても金銭又は有価証券の受領事実はありません。表題が「領収書」となっていても、印紙税の課税対象となる文書には該当しません。ただし、クレジットカード利用の場合であっても、クレジットカード利用の旨を「領収書」に記載しないと、印紙税の課税対象文書に該当することになります(印紙税法基本通達別表第一 第17号文書の1)。
相殺の場合
売掛金について、自己の買掛金と相殺し、受取書を相手方に作成交付した場合も印紙を貼る必要はありません。
金銭の受取書とは、金銭の引渡しを受けた者がその受領事実を証明するものをいいます。このケースの場合、作成交付した文書は、相殺による売掛債権の消滅を証明するものであって、金銭の受領事実を証明するものではありませんから、印紙税の対象となる金銭の受取書には該当しません(基通別表第一第17号文書の20)。
また、金銭又は有価証券の受取書に相殺に係る金額を含めて記載しているものについては、当該文書の記載事項により相殺に係るものであることが明らかにされている金額は、記載金額に含めません。
消費税及び地方消費税の金額が区分記載されている領収書
消費税及び地方消費税が区分記載されている場合又は税込価格と税抜価格の両方が記載されていること等により、その取引における消費税額等の金額が明らかな場合には、その消費税額等の金額は記載金額に含めないこととされています。
例えば、金銭の領収書に、「商品販売代金29,000円、消費税額等1,450円、合計30,450円」と記載したとします。この場合、消費税額等の1,450円は記載金額に含めませんので、記載金額29,000円が印紙税の課税対象の文書となります。したがって、記載金額が3万円未満ですから、非課税文書となり、印紙税は課税されません。

(矢澤利弘)

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会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-5

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会計と財務・第5回 法人税申告書の基礎

今回は法人税申告書の基礎についてみていくことにしましょう。

法人税の計算の流れ

まず、法人税の申告書を作るための流れを大きく見ていくことにします。法人税の税額を算出するには大きく(1)会計上の計算と(2)税務上の計算という2つの計算があります。

(1)会計上の計算というのは会社内で当期利益を計算する作業です。取引を記録し、総勘定元帳を作成し、決算整理をして、貸借対照表と損益計算書という決算書を作成します。株主総会において、決算書が承認されれば決算が確定することになります。

(2)税務上の計算は、確定した決算をベースにして行います。決算書にある当期利益に税務調整を加えて税務上の所得金額を算出し、税額の計算を行うことになります。法人税額が確定すれば、法人税の確定申告書を所轄の税務署へ提出し、税金を納付することになります。

法人税申告書の種類

一般の法人の法人税申告書には、(1)中間申告書、(2)確定申告書、(3)修正申告書があります。

(1)中間申告書は、事業年度開始日から6か月間の所得に応じた法人税を予納額として申告するための申告書です。中間申告には1)前年度実績による計算方法と、2)仮決算による計算方法、の2つがあります。

1)前年度実績による計算方法は、前期分の確定申告で計算した法人税額に12分の6を乗じた金額を当期の中間申告分の法人税額として計算する方法です。また、2)は実際に6か月間の所得金額を計算して法人税額を計算する方法です。

会社はこれらのいずれかを選択することができますが、1)の前年度実績による予納額を提出期限までに納付することによって中間申告を終えることが一般的です。

(2)確定申告書は、当該事業年度開始の日から終了の日までの所得金額を計算し、その所得金額に応じた法人税を計算して申告するための申告書です。

申告書の提出期限と法人税の納付期限

ほとんどの法人の事業年度は1年ごとに区切った期間で定められています。確定申告書の提出期限は、事業終了の日の翌日から2か月以内に所轄の税務署長に提出しなければなりません。

ただし、確定申告書を提出すべき法人が、会計監査人の監査を受けなければならないことその他これに類する理由により決算が確定しないため、提出期限までに提出することができない場合には、税務署長は当該法人の申請に基づき、提出期限を1か月間延長することができます。なお、1回承認を受ければその後も適用されます。

中間申告書の提出期限は、事業年度開始の日以後6か月を経過した日から2か月以内です。ただ、中間申告書の場合は、期限までに提出がなかった場合でも、その提出期限において前年度実績による中間申告書の提出があったものとみなされます。提出期限が土曜日や日曜日、休日だった場合には、その翌日が提出期限になります。

それでは、提出期限に間に合わなかった場合はどうなるのでしょうか。確定申告書については、申告期限が経過してしまっても申告書を提出すれば受理されます。ただし、期限に遅れた場合は期限後申告となり、青色申告の承認取消しや各種特典に関する規定の適用が受けられなくなるなど、不利に扱われることがあります。

法人税の納付期限は、確定申告書の提出期限と同じ日です。提出期限の延長申請をした場合であっても納付期限の延長は認められません。納付期限以降の期間については利子税が課税されます。また、延長申請をしないで申告期限後に納付した場合は延滞税が課税されます。

(矢澤利弘)

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会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-4

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会計と財務・第4回 予算管理

今回は予算管理について見ていくことにしましょう。予算は経営計画における業績目標を達成するための数値計画です。業績目標を達成するためには適切な予算編成や経営戦略、行動計画、予算統制などが必要です。

予算を編成する目的は業績目標の達成にあります。予算の編成を通じて、戦略や行動計画を策定する計画機能、部門や役員などの意見交換による調整機能の役割を担い、予算統制をすることにより、企業構成員に企業の方向性を示す伝達機能、企業構成員に目標を与える動機づけ機能と責任明確化機能、実績と比較することによる業績評価機能と統制機能を担うことになります。

予算編成

それではまず、予算編成のポイントについて見ていきましょう。

業績目標
業績目標の決定に当たっては、過年度の業績を分析したり、現在と将来の外部経済環境と内部経営環境を分析したりすることによって、達成可能で動機づけが適切になされる水準に決定する必要があります。実現不可能なほど高い目標や過度に保守的な業績目標を設定すべきではありません。また単なる経営者の勘や希望的観測に依拠した業績目標に基づく予算は意味がありません。
予算の編成方式
経営者の意思が予算編成方針として提示され、各部門が編成方針に従って部門予算を作成し、役員間、部門間で調整を図り、全社的な予算を編成する方式が一般的だと考えられます。逆に、部門担当者の各々が作成した部門予算を単に寄せ集めたような予算編成は望ましくありません。
予算には(1)売上予算、売上原価予算、販売管理費予算、研究開発費予算、営業外損益等予算などからなる損益予算、(2)営業収支予算、営業外収支予算などからなる資金予算、(3)設備予算や投融資予算などからなる資本予算があり、(4)それらを総合した総合予算があります。
これらの予算はばらばらであってはならず、それぞれの内容が整合している必要があります。また、短期予算は中長期の経営計画に整合していなければなりません。
予算編成の見直し
予算は一度作成したら絶対にそれを貫かなければならないのでしょうか。予算の編成方式には(1)予算期間が終了するまで予算の見直しを行わない固定方式と、(2)最新の環境変化を予算に織り込み、予算期間中でも予算を修正するローリング方式があります。これらのどちらを採用するかは外部経済環境の変化の状況などを勘案する必要があります。環境変化に対応できるのはローリング方式ですが、安易な予算の修正は各部門のモチベーションを弱める可能性もあります。

予算統制

予算は編成しただけでは意味がありません。予算をきちっと守っていくことが必要です。そのため、予算や行動計画に従って業務が実施されているかどうかについて予算と実績を比較し、予算と実績に差異が生じた場合には原因を究明し、対策を講じる必要があります。

また、予算期間が終わった後には予算と実績を比較し、差異分析の結果を翌期の予算策定に活用することが大切です。これらの一連の行動を予算統制といいます。この一連の流れをP(Plan)計画、D(Do)実行、C(Check)確認、A(Act)改善、の4つに分けてPDCAサイクルと呼びます。

  • 【参考文献】
  • 日本公認会計士協会東京会編『起業家・ベンチャー企業 支援の実務』(2011年)

(矢澤利弘)

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会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-3

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会計と財務・第3回 ベンチャー企業の資金需要の特徴

ベンチャー企業の資金需要

今回はベンチャー企業の資金需要の特徴について見ていくことにします。

ベンチャー企業は独自のアイデアの実現や新技術の開発を経営の中核に置いていることが多いため、開発期間が長期にわたることがよくあります。そのため、長期間にわたって売上が計上されないことが多く、そうした場合には開業資金を十分に確保しておく必要があります。売上高が不十分なまま、開発を続けていくと、会社にある資金が減少していきますが、資金が尽きる前に、十分な売上高を確保できるようになれば、会社は成長を続けていくことができます。ただし、十分な売上高が計上できる前に、資金が枯渇してしまった場合、会社は存続することが困難になります。そのため、ベンチャー企業では余裕をもった資金計画を立てておく必要があります。開業当初に必要とされる資金や開業後に経常的に必要とされる資金も一般の中小企業と比較して厚めに準備することが必要となります。

開業当初においては、一定の開発要員を確保しなければならず、一定の開発環境も維持しなければなりません。また、継続して売上を計上し、代金を回収できるとは限らないため、その間のつなぎ資金も必要です。このようなことから、ベンチャー企業においては、短期よりも長期の資金、条件の有利な資金、返済が免除される可能性があるか、元々返済が不要であるような資金の活用が重要です。

成長段階に応じた資金需要

それでは、成長段階に応じた資金需要について見ていきましょう。

開業資金
事業を始めるに当たっては、会社の設立事務手続に関する費用の支払や、営業を開始するまでの間の開業準備のための支出に充てる資金が必要となります。これには事業の開始のために最低限必要となる設備や人材の確保のための資金が含まれます。また、開業したとしても、すぐに売上高を計上し、その代金が回収できるとは限らないため、その間の通常経費の支払に充てるための資金も準備しておかなければなりません。
運転資金
開業後、継続的に売上が計上できるようになっても、通常は仕入代金や経費の支払が販売代金の回収に先行するため、その間の運転資金を確保しておくことが必要です。運転資金は通常、次のように示すことができます。

 運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務(経費の未払を含む)

決算資金
決算資金は、決算後の納税や配当金の支払などに充てるためのもので、決算時に一時的に必要とされる資金です。広義の運転資金として位置づけられます。
設備投資資金と研究開発資金
事業が成長してくれば、現状の設備などを増強するために設備投資資金が必要になってきます。また、将来を見据えた研究開発のために、研究開発資金も必要になってくるでしょう。これらの資金は、その回収期間が長期にわたり、必ずしも回収できるとは限らないため、短期に返済が必要な資金ではなく、長期間の返済が可能であるか、一定の条件を満たすことにより、返済を免除される可能性のある資金で賄うことがよいでしょう。
  • 【参考文献】
  • 日本公認会計士協会東京会編『起業家・ベンチャー企業 支援の実務』(2011年)

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会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-2

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会計と財務・第2回 資金繰り表のポイント

今回は前回に引き続き、資金繰り表のポイントについて見ていきましょう。資金繰り表は損益計算書や貸借対照表などとは異なり、一定の作成基準が決められておらず、外部へ開示する必要もないため、自由に作成することができます。ここでは、一般的なフォームをご紹介することにします。

資金繰り表のサンプル

資金繰り表には将来の資金収支計画を表した資金繰り計画表と、過去の資金収支を表した資金繰り実績表がありますが、先に示したフォームの資金繰り表は、この両者を一体化したもので、計画と実績を対比させることによって、比較分析を行い、資金繰りの実績を将来の資金計画に活用することを可能にしたものです。

資金繰り表作成のポイント

資金繰り表は、比較的短期の将来期間で資金ショートを起こさないようにするために、資金収支を調整することが主目的で作成されることが多いため、通常は、月次ベースの計画表を3ケ月から1年分程度作成することが一般的です。ただし、資金繰りがタイトな会社では、日次ベースで作成することもあります。

また、資金ショートを起こさないようにするという目的から、資金繰り表の対象とする資金の範囲は、現金のほか即時に解約可能な預金を資金の範囲に含めることが一般的です。

資金繰り表の作成方法と留意事項

資金繰り表は、利益計画、販売計画、仕入計画、在庫計画、設備投資計画、人員計画、借入金返済計画などの経営計画に従って作成します。作成に当たっては以下の点に留意しましょう。

  • ・過去のデータや外部環境に関連する統計数値を参考にしながら作成し、目標値を用いない。
  • ・作成の頻度や資金の範囲、表のフォームなどは企業の実情に合わせて最適なものを選択する。
  • ・実績と計画の間にズレが生じた場合は適時に修正を行う。また、ズレの原因を分析して将来の資金計画に活用する。
  • ・希望的観測に基づいて作成せずに、収支予測は保守的に行う。

次回はベンチャー企業の資金需要の特徴について見ていくことにしましょう。

  • 【参考文献】
  • 日本公認会計士協会東京会編『起業家・ベンチャー企業 支援の実務』(2011年)

(矢澤利弘)

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会計と財務 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter7-1

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会計と財務・第1回 会計と財務の第一歩

会計と財務

今回から、数回にわたって会計とお金に関するお話をすることにします。皆さんが起業するに当たって、絶対に避けることができないのが、会計であり、税務なのです。

一口に起業するといっても、様々な分野が考えられます。例えば、商品開発をしなくてもいい場合もあれば、狭義の意味で営業活動をする必要のない場合もあるでしょう。在庫を持たなくてもよい会社もあれば、在庫管理が不可欠な会社もあるはずです。ただし、どんな会社であってもお金がなければ事業を進めていくことができませんし、お金の支払いや受け取りが不要である会社はありません。それに少なくとも年1回は決算書を作成して、決算期末後には税務申告をする必要があります。

資金繰りの重要性

今回は会社の資金繰りについてみていくことにしましょう。特に創業期の企業にとってはこの資金繰りが非常に重要です。「勘定合って銭足らず」という言葉があります。これは帳簿上では収支が合って儲かっているはずなのに、実際に現金が足りない状態をいい、理論と実践がなかなか一致しないことをいいます。

実際、会社の売上高が増加し、そこそこの利益を計上するようになったとしても、倒産してしまう会社がある一方、何年も赤字を計上しながら、倒産せずに事業を継続している会社もあります。それはどうしてでしょうか。会社というものは資金がある限り、いくら赤字を継続したとしても倒産することはありません。一方、黒字であっても資金がショートすれば、いわゆる黒字倒産するケースもあります。黒字倒産には様々な原因がありますが、例えば、1)売上拡大を志向しているにも関わらず、売上債権の回収が疎かになっている場合、2)過大な在庫を抱えており、資金が枯渇してしまう場合、3)借入金返済など、非経常的な支払いをする余裕がなくなった場合、などの事例がよく見受けられます。外部環境の急変で資金ショートする可能性もありますが、資金計画を策定しておくことにより、資金不足が生じる時期を予測することができるため、資金調達に時間的な余裕を持つことができるようになります。そのため、資金ショートの危険性を低下させることができます。

資金計画

資金計画では、将来の資金収入と支払を計画し、資金の過不足のないように調整します。とりわけ創業期の会社にとっては、資金繰りをいかにするかが、会計上の利益をいかに計上するかということに勝るとも劣ることのない重要な計画となります。資金計画を策定するためには、収入と支払を予測する必要があるので、利益計画、販売計画、仕入計画、在庫計画、設備投資計画、人員計画、借入金返済計画などが必要となります。

資金に関する管理資料には、資金繰り表のほかに、資金運用表、資金移動表、資金収支表、キャッシュ・フロー計算書などがあります。このなかで、一般に資金繰り表は将来計画のために作成され、残りは過去の分析のために作成されることが多いです。資金ショートを起こさないようにするためには、資金繰り表を作成しておくとよいでしょう。次回は資金繰り表を作成するためのポイントについて説明していきます。

(矢澤利弘)

本連載「起業ブートキャンプで鍛えよう!」は、起業を志し、会社をつくり、事業を自分でつくっていきたいと思う人に向けた、起業入門向けの連載講座です。早稲田大学の学生や教職員によるベンチャー企業を数多く見てきた、早稲田大学インキュベーション推進室のスタッフ(コンサルタント、事務スタッフ)が、さまざまな実例を基に解説します。読み進んでいくのに特別な知識は必要ありません。市販の参考書には載っていないノウハウを集めた、学生による起業を意識した連載です。なお、本連載における掲載内容は、各執筆担当者の個人的見解に基づくものであり、必ずしも学校法人早稲田大学の見解に基づくものではありません。

外部専門家や各種サービスの利用 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter6-3

外部専門家や各種サービスの利用・第3回 インキュベーション施設の活用

起業直後の段階では、売上がなかなか見込めないものです。このため、経費は極力抑えておく必要があります。その中でもオフィスの料金は、固定費として毎月一定額が必ず発生するものですから、安く抑えられるに越したことはありません。もちろん、自分一人だけで事業をするのなら、自宅の一室をオフィスにするという方法もあるでしょうが、これでは社員を雇用したりお客さんと打合せをしたりというわけにはいきません。やはり、自宅外にオフィスを構えることになります。今回は、オフィス選びの際にどのようなポイントがあるかについて、解説します。なお、飲食店や一般店舗販売を前提としている場合は、顧客の動線を第一にして立地条件を考える必要がありますが、本筋から離れるので、ここでは説明を割愛します。

インキュベーションオフィスの種類

第一選択に挙げられるのが、地方公共団体(都道府県、市区町村)など公的機関が運営する、インキュベーションオフィスの活用です。インキュベーションという単語は(このブログの表題にも入っています)「孵化」という意味で、卵から孵す、すなわち事業の卵が一人前の事業になるための支援をする、ということを指します。このため、一般のオフィスに比べて、賃料が抑えられておりさまざまなサービスがある反面、入居期限が設けられていたり経常利益に応じた負担が発生したりという制限もあります。

例えば東京都内の場合、東京都中小企業振興公社が「インキュベータオフィス情報」という一覧を用意しています。東京都以外では、企業担当や産業振興などを担当している部署にて、同様の情報を持っています。まずは、自分が事業を始める根拠地として利用できる立地であるかを確認し、オフィスの施設やサービス内容をチェックするとよいでしょう。都心部では、廃校となった学校の校舎跡など、使われなくなった公共施設をリニューアルして利用しているケースが多数あります。自治体および関連団体が運営する場合は、その自治体内に在住、在勤または在学していることを利用資格にしていることが一般的です。

また、民間企業(不動産会社を除く)が運営しているインキュベーションオフィスもあります。こちらは、運営元企業がベンチャー企業を投資先候補として入居させるケースや、優秀な企業経営者をリクルーティングするための足がかりとして入居させるケースなども見られます。こちらは最初から企業を入居させる目的で施設を大改修しているケースが多く、設備は公共の施設よりも充実しています。入居資格自体は比較的緩やかです。

さらに、大学や研究機関が設置しているインキュベーション施設もあります。これには2つのパターンがあり、1つはビジネス利用を目的とするオフィスを提供するもの、もう1つは研究者が開発を行う拠点を提供するもの(VBL=ベンチャー・ビジネス・ラボラトリともいいます)です。後者のものが多数ですが、前者のオフィススペース提供型の施設を運営している大学も一部あります(早稲田大学のほか、東京大学など)。各大学等に在籍する学生や研究者、教職員などの利用や、共同研究を行う企業等との共同出資による企業の利用などが基本です。

このほかにも、さまざまな施設があります。それでは、こういった施設を、どのように選べばよいでしょうか。

インキュベーションオフィスの選択

冒頭に書いたとおり、オフィスの選択にあたって、賃料がまず重要なのはいうまでもありません。このほかにも、施設、人的サービス、立地条件などを考慮しましょう。

施設面では、オフィスへの出入りに時間制限があるか、施錠などセキュリティはどうか、共用部分の利用権(有料/無料)はどこまであるか、電気やネット(有線/無線)のインフラはどうか、などが頭に浮かびますが、それ以前に、そもそも個室が必要かどうか、という点があります。立ち上げメンバーのみで従業員はゼロ、ノートPCと携帯電話で用が済むのであれば、デスクのみを利用できるサービスを使う方法もあります。これも、机を自社で占有するものと、自由席で他社と共有するものがあります。いろいろな選択がありますので、まずは業種に応じて利用形態を考えてみましょう。なお、個室を使わない場合は、会議室やロビーなどの打合せスペースが柔軟に利用できるところがよいでしょう。

続いて人的サービスですが、インキュベーションオフィスには、企業経営の専門家であるインキュベーターマネージャー(以下、IM。施設によって肩書きはさまざまです)がおり、経営指導にあたることが多くなっています。IMには、前々回の連載で紹介した肩書き(特に中小企業診断士が多い)を持っている人や、投資・証券・金融およびそれらの関連企業で働いていた人などが着きます。企業経営者と適切な関係を維持しつつ、困ったときだけでなく、困る状況になる前に助言をくれるのがベストです。しかし、これらの人がどのような形でサポートしてくれるのかは、Webサイトやパンフレットなどの紹介だけでは、なかなかわかりません。入居者に知り合いがいれば、まずはどんな人がいるのか聞いてみましょう。また、入居申請の前に、実際のサービス内容の確認の意味で、相談してみるのもよいでしょう。このほか、庶務的な対応もどの程度可能か、確認しておきましょう。

最後に、立地条件。これは、前2者ほどには重要ではありませんが、起業を志す人は、相互に通じるものがあるのか、意外と横のつながりが多いものです。このため、業種に応じて、オフィスを構える場所が似通うことがままあります。例えば、IT系ベンチャーなら渋谷、恵比寿、青山、赤坂など。営業系ベンチャーなら新宿、池袋など。人材活用系ベンチャーなら銀座、新橋、品川などになります。もちろんこれらは一般的な傾向で、これにこだわる必要はまったくありませんが、比較的近接した業種の人とインフォーマルな情報交換ができる機会は、とても重要なものです。「ネットさえあればどこでも仕事はできる」というのは間違いではありませんが、リアルな人付き合いなしに事業を拡大するには限界があります。

いかがでしょうか。オフィスを構えることひとつをとっても、考えることはいろいろありますね。最初はオフィスをコンパクトなものにして、成長したら順次大きいところに移る、これが基本です。

年明けとなる次回からは、事業運営の主軸となる、財務についてのパートになります。

(渡邉謙信)

本連載「起業ブートキャンプで鍛えよう!」は、起業を志し、会社をつくり、事業を自分でつくっていきたいと思う人に向けた、起業入門向けの連載講座です。早稲田大学の学生や教職員によるベンチャー企業を数多く見てきた、早稲田大学インキュベーション推進室のスタッフ(コンサルタント、事務スタッフ)が、さまざまな実例を基に解説します。読み進んでいくのに特別な知識は必要ありません。市販の参考書には載っていないノウハウを集めた、学生による起業を意識した連載です。なお、本連載における掲載内容は、各執筆担当者の個人的見解に基づくものであり、必ずしも学校法人早稲田大学の見解に基づくものではありません。

外部専門家や各種サービスの利用 連載講座「起業ブートキャンプで鍛えよう!」Chapter6-2

外部専門家や各種サービスの利用・第2回 外部専門家の有効な活用方法

前回の連載で、会社経営の手助けをしてくれるさまざまな分野の専門家がいることを説明しました。しかし、こういった専門家をどのように活用していけばよいかというのは、なかなか難しいところです。今回は、そういった専門家への相談について、より詳しくご説明します。

依頼するときに必要なこと

さまざまな分野の専門家に依頼する場合、しばしば起きるのが、「この程度の案件なら相談するまでもないだろう」「急ぎでもないからしばらく様子をみよう」と考えているうちに、事態が深刻になってしまうケースです。例えば弁護士の場合、「争訟の専門家だし、まだ話す段階ではない。問題が起きてから相談したほうが相談料も安くなるだろう」と思うケースがあります。この判断が必ずしも間違っているとはかぎりませんが、素人考えで「まだ弁護士はいらない」と考えるのは、実は危険なことです。「トラブルや手間を予防するために専門家を使う」という視点が大事です。

また、あちらの専門家、こちらの専門家と、さまざまな人から意見を聞き回るという企業経営者も時折見られます。人と人との相性というものはあるので、どうしても「この人には打ち明ける気になれない」と思うこともあるでしょう。しかし、会社経営のなかで何が問題なのかを見いだすには、つきあいが長いほうがよいものです。「この会社だとこの部分を改善したらよいだろうな」ということは、初見の方ではなかなかわからないもの。病気を持っている人が主治医をころころ変えるのはろくな結果を招かないものですが、これらの専門家も同様です。また、相談を希望する内容に関する資料は「こんなのいらないかな?」と思うものも含めてすべて見せ、「こうしたいがどうすればよいか」「このようにすることは可能か」など、具体的に問い合わせることも重要。国家資格を持っている人であれば、相談内容は絶対厳守ですし、双方代理(立場の異なる双方からの代理を受けること)も原則禁止されています[1]から、相談そのものが不利になることはありません[2]

専門家への契約のパターン

それでは、専門家に相談する場合には、どのような契約を結べばよいのでしょうか。ここでは、法律事務所や税理士事務所、社会保険労務士事務所などで用いられるタイプの契約パターンを紹介します。

総合的な顧問契約
さまざまな分野にわたって総合的な助言および代理などを行うものです。決まった期間ごとに業務内容のチェックをしてもらうことができ、また電話一本で対応に乗ってくれます。長期的かつ継続的な業務を委託する必要があり、なおかつ対外的なトラブルが発生しやすい場合に備えた契約ともいえるでしょう。そのかわり固定費としてかなりの金額がかかることは覚悟する必要があります。なお、書類作成や計算(税金や賃金など)は基本的に別計算ですが、スポット契約の場合に比べて安価で済む場合も多いようです。
定期的な相談が可能なタイプの顧問契約
毎月定期的なタイミングで相談を受け付けるものです。各種手続きなどは基本的に社内でこなすことを基本としますが、コアとなる部分については頻繁な相談が必要となる場合に結びます。基本的に相談や情報提供が中心となるため、事務代理などは別途費用が発生します。なお、上の「総合的な顧問契約」と分けていないこともあります。
スポット契約
継続的な契約を結ぶのではなく、その時々において必要となる事項を依頼するものです。定期的な費用は発生しませんが、作業に必要となる時間ないし工程に応じて費用が発生するため、案件が難しくなるほど高額となります。このため、基本的には継続的に依頼する必要がまずないという場合にこの契約をとります。法人設立登記などは、まさにこのパターンでしょう。

実際には、この3つの類型に必ずしも限られるものではありません。例えば、期間を定めたプロジェクトに入ってもらう場合などもあります。

創業当初は、いろいろと思いも掛けないことがでてくるものですし、すべてを自分の考えだけで乗り切ろうとすると、たいへんな負担になります。したがって、顧問契約を結んで柔軟な依頼ができるようにするのが理想ですが、初期段階のコストを考えると、あまり現実的ではありません。そこで考えられるのが、ベンチャー支援を行うインキュベーション施設の活用です。

インキュベーション施設のソフト活用

例えば、複雑な法律関係を解決しようとすれば、弁護士への相談は欠かせません。しかし、創業間もない段階で、広い範囲に対応できる弁護士事務所と継続的な雇用契約を結ぶとなると、かなりの費用が発生します。これに加えて、税理士や社会保険労務士などとの顧問契約を結び、あるいはファイナンスや経営戦略を判断できるコンサルタントと契約を結び、などとなると、費用がいくらあっても足りません。その際に活用できるのが、ベンチャー支援を行っているさまざまなインキュベーション施設です。

早稻田大学インキュベーションセンターをはじめとして、さまざまなタイプのベンチャー支援機関が存在しますが、こういった機関では、経営支援のために有用なコンサルタント(インキュベーターマネージャー)を抱えているケースが多くあります。もちろん、各種専門家が実際には施設に来てはおらず、外部の提携機関を紹介するだけというケースもあるでしょうが、それでも、自力で探すことに比べれば、はるかに容易でしょう。

これらの施設を利用する企業は、「格安でオフィスを利用できる」ことを第一の理由にしているケースが多いですし、それは間違ってはいないのですが、こういった施設が抱えているスタッフを格安(場合によっては賃料込み)で活用できるというのは、スタートアップ段階のベンチャー企業ならではの特権です。ぜひ、ソフト面での活用に注目してください。

  • 【注】
  • [1] 双方代理が認められるケースもあります。例えば、不動産の移転登記を行う場合、登記手続を行う司法書士は、移転元と移転先の双方から同一の案件を受注できます。これは、司法書士が仲介の役割も担っており、一方の利益がもう一方の不利益になるわけではないためです。
  • [2] 本稿の記述にあたり、鈴木理晶氏の講演「あのとき~しておけばよかったのに。上手な弁護士の使い方」(2012年11月30日、早稲田大学インキュベーションセンター入居者交流会での講演)の内容を参考にさせていただきました。

(渡邉謙信)

本連載「起業ブートキャンプで鍛えよう!」は、起業を志し、会社をつくり、事業を自分でつくっていきたいと思う人に向けた、起業入門向けの連載講座です。早稲田大学の学生や教職員によるベンチャー企業を数多く見てきた、早稲田大学インキュベーション推進室のスタッフ(コンサルタント、事務スタッフ)が、さまざまな実例を基に解説します。読み進んでいくのに特別な知識は必要ありません。市販の参考書には載っていないノウハウを集めた、学生による起業を意識した連載です。なお、本連載における掲載内容は、各執筆担当者の個人的見解に基づくものであり、必ずしも学校法人早稲田大学の見解に基づくものではありません。